ご冥福をお祈りいたします
18年前、たまたま高倉さんと同じスポーツクラブに通っていました。最初の一年余りはドキドキしながら挨拶する程度でしたが、その後とても印象的な出来事がありました。
それは通りがかりで、偶然目にした光景…
シャワー室から出てこられた高倉さんがずれたマットを、几帳面に直していました。その姿が非常にかっこよく見えたのです。
あの有名な高倉健さんがそんなことをするとは想像もしていませんでしたから、その行動はやはり衝撃的でした。
もし気がついても、ほとんどの人が直すことはしないと思います。人としての実直さを強烈に感じたのを思い出します。
ノンフィクション作家である野地秩嘉氏が著書「高倉健インタヴューズ」で紹介したエピソード。
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長野で刀匠をしている、宮入小左衛門行平は高倉健が刀を見にやってきた日のことを忘れない。
「火を扱う作業ですから、仕事場の隅の小さな神棚を拵えてあります。しかし、目につくものではありません。本当に小さなもんです。私の仕事場にずいぶんとたくさん人がやってくるのですが、入ってきたとたん、何も言わずに神棚のほうを向いて手を合わせたのは高倉さんだけでした。」
野地さんはその著書でこう結んでいます。
「大衆は高倉健の姿勢の良さや落ち着いた表情がみたいのだ、つまり、彼が発している漠然とした気配を感じ取りたいのだ。私はスターと呼ばれる人の中で、彼ほど感謝の気配を素直に表している人間は少ないと思う。」
*** 高倉健インタヴューズ 野地秩嘉著 プレジデント社
私は幸運にも、高倉さんと一緒に、宮入さんの工房を訪ねたことがあります。高倉さんが神棚に手を合わせる姿に思わず、真似をしたことを思い出しました。
また、香港の旅先で高倉さんから「感謝の気持ちは、たとえ言葉が通じなくても、両手をあわせ日本語で「ありがとう」といえば世界中で通じるから感謝の気持ちは必ず相手に伝えたほうがいいよ」と言われた言葉が今でも心の深くに残っています。
ご一緒できた時間、あんなに楽しい時間はありませんでした。
もうお会いすることが叶わないとは… とても信じられません。
高倉さんの代表作「鉄道員(ぽっぽや)」の世界観の様にいつものように折り返しの電話を頂けそうな気がして…
ふと、高倉さんの携帯に電話してみたくなる気持ちを抑えています。
高倉さんのご冥福を心よりお祈りいたします。